くしゃみの謎: 「誰かが噂している」という俗信の起源と歴史

「ハクション!」とくしゃみをしたとき、「誰かが噂をしているのかな?」といった話題になりますよね?

Manus

くしゃみの謎
俗信のルーツを調べて!

日本では広く知られているこの俗信ですが、一体いつから、そしてどのような理由で言われるようになったのでしょうか。
気になります。
ここでは、平安時代から続く日本の歴史、言葉のルーツ、くしゃみの回数にまつわるジンクス、そして海外の興味深い文化まで、くしゃみにまつわる数々の謎を丁寧に紐解いてまいります。

諸説あるのでしょうが。

いつから言われている?(平安時代に遡る歴史)

くしゃみと噂の関係は、実は非常に古く、日本の古代にまで遡ることができます。
平安時代という話で。。

日本最古の和歌集である『万葉集』(奈良時代末期成立)には、すでにくしゃみと「誰かの思い」を結びつける記述が見られるそうです。
たとえば、第11巻2637番の歌には、「くしゃみが出るのは、愛する妻が私を思ってくれているからだろうか」といった内容が詠まれています。

当時は「誰かの噂」というよりも、「愛する人の強い思いが、くしゃみとして現れる」という、少しロマンチックな捉え方がされていたようです。
この「誰かの強い思いによって引き起こされる」という考え方が、時代を下るにつれて徐々に変化し、現代の「誰かが噂をしている」という形に定着していったと考えられています。

どうして?(「魂が抜ける」と恐れられた時代)

では、なぜ他人の思いがくしゃみになって現れると考えられたのでしょうか。
それには、昔の人々の死生観(生死に対する切実な思い)が関係しています。

古代の日本では、くしゃみをすると「鼻から魂が抜け出てしまう」と信じられていました。
本気でそのように思っていたのだと考えると、現代のわれわれからすれば滑稽ですが。
科学のない世界では、切実な問題だったのでしょう。

医療が未発達であった時代、風邪などの感染症は命に関わる重大な病でした。
風邪の初期症状であるくしゃみは、まさに「不吉な前触れ」であり、魂が抜けた隙に身体に悪霊が入り込むと恐れられていたのです。

そのため、くしゃみという生理現象は単なる身体の反応ではなく、目に見えない不思議な力(他者の思いや悪霊の仕業)によって引き起こされるものだと解釈されていました。

ことばのルーツにも関係?(「くさめ」という呪文)

私たちが日常的に使っている「くしゃみ」という言葉の語源も、実はこの「魂が抜ける」という迷信に深く関わっています。

くしゃみをしたとき、魂が抜けて早死にしないようにと、昔の人々は「くさめ」という呪文を唱えました。
鎌倉時代に吉田兼好が著した随筆『徒然草』の第四十七段には、比叡山にいる愛しい養い子がくしゃみをして死んでしまわないようにと、道歩きながら「くさめ、くさめ」と祈り続ける老いた尼の姿が描かれています。

この「くさめ」という呪文の由来には諸説あります。
陰陽道で長寿を願う「休息万命(くそくまんみょう)」が早口になって変化したという説や、悪霊を汚い言葉で追い払うための「糞食め(くそはめ)」から来たという説などです。

時代が経つにつれ、この「くさめ」という呪文自体が変化し、くしゃみという行為そのものを指す「くしゃみ」という言葉になったとされています。

くしゃみ何回でなんだっけ?(回数にまつわるジンクス)

「くしゃみをすると噂されている」という俗信は、江戸時代頃になると庶民の間で娯楽性を帯び、回数によって噂の内容が変わるという遊びに発展しました。

地域によって多少の違いはありますが、最も有名なのは「一誹り(いちそしり)、二笑い、三惚れ、四風邪(しかぜ)」ということわざです。

くしゃみの回数噂の意味
1回誰かに悪口を言われている(または褒められている)
2回誰かに笑いのネタにされている(または憎まれている)
3回誰かに惚れられている
4回以上単なる風邪(体調不良)

3回までは誰かの噂や想いが関係していますが、4回目になると「それはさすがに風邪でしょう」と現実的なツッコミが入ります。
昔の人のユーモアを感じさせて微笑ましいですね。

海外では?(「Bless you」に込められた祈り)

日本独自の文化に思えるくしゃみの迷信ですが、実は海外にも似たような歴史があります。

英語圏で誰かがくしゃみをしたとき、周囲の人がすかさず「Bless you(神のご加護を)」と声をかける習慣をご存知でしょうか。
けっこう真面目に言ってくださる方が多い印象です。
これも、古代ヨーロッパで「くしゃみをすると魂が抜けて悪魔が入り込む」と信じられていたことに由来します。まさかの一致です。

さらにこの習慣が広く定着したのは、6世紀のローマでペスト(黒死病)が大流行した時期だと言われています。
くしゃみはペストの初期症状と考えられていたため、当時のローマ教皇グレゴリウス1世が、くしゃみをした人に対して「God bless you」と祈るよう推奨したのが始まりとされています。

「くさめ」という日本の呪文と、英語圏の「Bless you」。
遠く離れた場所でありながら、くしゃみという現象に対して「命を守るための祈り」を捧げていたという共通点があるのは、非常に興味深い逸話です。

誰かの思いに違いない

「誰かが噂している」という気軽な俗信の裏には、愛する人を思う万葉人のロマンチシズムや、病から命を守ろうとした昔の人々の切実な祈りが隠されていました。

次に「ハクション!」とくしゃみが出たときは、誰かがあなたの噂をしているのか、それとも単に風邪の引き始めなのか、少しだけ歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
もちろん、4回以上続くときは、温かくしてお休みくださいませ。

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