「このツールはクラウドですか?」
「このツールはSaaSですか?」
ITの話をしていると、こうした言葉がよく出てきます。
どちらもインターネットを通じて使うものとして語られるため、同じ意味のように感じるかもしれません。
しかし、クラウドとSaaSは、指している範囲が違う言葉です。

クラウド
と
SaaS
先に結論を言うと、クラウドは、インターネット経由でITの機能を利用するための広い考え方であり、提供方式です。
一方のSaaS(サース)は、そのクラウドを利用して提供される「すぐ使えるソフトウェア(アプリ)」の代表的な形です。
この記事では、専門用語をできるだけ避けながら、両者の関係を整理します。(一部の表現を単純化しています。より正確な情報は、それ相応の情報量を確認してください。)
まず結論: クラウドは広い言葉、SaaSはその中の一つ
たとえば「食べ物」と「パン」の関係を思い浮かべてください。
食べ物には、ごはん、麺、野菜、果物など、さまざまな種類があります。
その中の一つがパンです。
同じように、クラウドにはいくつかの利用形態があります。
その中で、利用者が完成したアプリを使う形がSaaSです。
| 言葉 | ひとことで言うと | 指している範囲 |
|---|---|---|
| クラウド | インターネット経由でITの機能を使う仕組み・考え方 | 広い |
| SaaS | インターネット経由で使う完成済みのソフトウェア(アプリ) | クラウドの代表的なサービス形態の一つ |
したがって、「SaaSはクラウドを利用したサービスです」と言うのは適切です。
ただし、「クラウド=SaaS」と言い切ると、サーバーや開発環境など、SaaS以外のクラウドの使い方が抜け落ちます。
クラウドとは何か: 自前で持たず、必要な分を使う考え方
クラウドは、正式には「クラウドコンピューティング」と呼ばれます。
少し硬い言葉ですが、初級者向けには次のように捉えると十分です。
サーバー、データの保存場所、アプリなどのIT機能を自社や自宅に一から置かず、インターネット経由で必要に応じて利用すること。
クラウドでは、提供会社が大規模な設備を用意し、利用者はネットワーク越しにその機能を使います。
代表的な国際標準の説明でも、ネットワークを通じて、設定可能なコンピュータ資源を必要に応じて利用できるモデルとされています。
クラウドをイメージするには、DVDと動画配信サービスの違いに置き換えるとわかりやすくなります。
DVDを見る場合は、ディスクを用意し、保管し、再生機器も自分で管理します。
一方、動画配信サービスでは、作品データを自分で保管しません。
インターネットにつなぎ、見たいときにサービス(YouTubeやNetflixやAmazon Prime Videoなど)へアクセスします。
ITでも似た変化が起きています。
以前は、会社がサーバーを購入して社内に設置し、故障対応や更新を行うことが一般的でした。
クラウドでは、必要な機能をサービスとして使えます。
つまり、「設備を所有して運用する」から「機能を利用する」へと考え方が変わります。
ただし、クラウドは「インターネット上にあるもの」すべてを指す、あいまいな言葉ではありません。
どの部分まで提供会社に任せ、どの部分を利用者が管理するのかによって、サービスの形が分かれます。
SaaSとは: ログインしてすぐ使えるソフトウェア(= アプリ)
SaaSは Software as a Service の略です。
日本語では「サービスとして提供されるソフトウェア」といった意味になります。
ソフトウェアとは、アプリと考えて差し支えありません。
利用者の視点で言えば、SaaSはブラウザや専用アプリからログインして使う、完成済みの業務アプリです。
メール、オンライン会議、顧客管理、会計、ファイル共有などが該当します。
SaaSでは、サービスを提供する会社が、アプリ本体だけでなく、そのアプリを動かすためのサーバーや更新作業も主に管理します。
利用者は、基本的にアカウントを作成し、設定をして、日々の仕事に使います。
| SaaSの利用者が主に行うこと | SaaS提供会社が主に行うこと |
|---|---|
| アカウントの利用、権限設定、データ入力、業務に合わせた設定 | アプリの提供・更新、サーバーやOSの運用、障害対応、基盤側のセキュリティ対策 |
たとえば、Webメールを利用するとき、利用者は手元でメールの送受信指示を出します。
ただし、実際にメールの送受信を行う仕組みを備えたサーバーを用意したり、アプリの更新作業をしたりといった必要はありません。すべてサービス提供側がやってくれるのです。
このように、利用者が「アプリを使うこと」に集中できるのがSaaSのわかりやすい特徴です。
SaaSは「アプリの名前」ではなく、提供のされ方を表す言葉です。
ここは小さく見えて重要なポイントです。
SaaSは、特定の製品名ではありません。
ソフトウェアをサービスとして利用する形を表す言葉です。
同じ種類のアプリでも、会社のパソコンにインストールして自社でサーバーを管理する場合と、インターネット経由でサービスとして使う場合では、後者をSaaSと呼びます。
つまり、SaaSを理解する鍵は「何のアプリか」だけではなく、どのように提供されるのかや、どのように運用されるのか、にあります。
SaaS以外にもある: IaaS、PaaS、CaaS、FaaS
クラウドのサービス形態として、まず押さえたいのは SaaS、PaaS、IaaS の3つです。
これらは、利用者がどこまで何を管理するか、何を使える状態で受け取るか(サービス提供者が何を管理して何を提供するか)によって分けられます。
| 用語 | 正式名称 | 何を受け取るか | 主な利用者 | 例え話 |
|---|---|---|---|---|
| SaaS | Software as a Service | 完成したアプリ | 一般利用者、業務部門 | 家具・家電付きの部屋を借りて、すぐ生活する |
| PaaS | Platform as a Service | アプリを作って動かすための土台 | 開発者 | 設備の整ったキッチンを借りて、料理に集中する |
| IaaS | Infrastructure as a Service | 仮想的なサーバー、保存場所、ネットワークなど | IT担当者、開発者 | 土地や建物の骨組みを借りて、自分で部屋を整える |
| CaaS | Containers as a Service | コンテナ化したアプリを動かす・管理する環境 | 開発チーム | 料理と必要な道具を箱にまとめ、その箱を運べるようにする仕組み |
| FaaS | Function as a Service | 小さな処理を必要なときだけ動かす実行環境 | 開発者 | 注文が入ったときだけ調理を頼む仕組み |
IaaS: サーバーなどの「土台」を借りる
IaaSは Infrastructure as a Service の略です。
Infrastructureは、ITを動かす基礎設備を指します。
IaaSでは、サーバー、データの保存場所、ネットワークといった土台を必要に応じて借ります。
ただし、借りたサーバーの中で動かすOSやアプリ、データの管理は、利用者側が担う場面が多くなります。
その分、設定の自由度は高くなります。
「自社専用のシステムを動かしたい」「細かな構成を自分で決めたい」という場合に向く形です。
一方で、運用の知識や管理の手間も必要になります。
PaaS: アプリを作る人のための「開発しやすい土台」
PaaSは Platform as a Service の略です。
アプリを開発し、公開し、動かすための環境をまとめて提供する形です。
IaaSよりも多くの部分を提供会社が管理するため、開発者はサーバーそのものの細かな運用より、アプリの作成や改善に集中しやすくなります。
たとえば、Webサービスを作るときに「コードは書きたいが、サーバーの初期設定やOSの更新まではなるべく抱えたくない」という場合に使われます。
なお、PaaSは主に開発者向けの言葉なので、一般的な業務利用で毎日意識する機会はSaaSほど多くありません。
CaaSとFaaS: 3分類より細かく分けるときの言葉
クラウドの話では、SaaS・PaaS・IaaS以外の「○○ as a Service」も見かけます。
こうしたサービスの総称として、XaaS(ザース/Everything as a Service) と表すこともあります。
CaaSは、アプリと必要な部品を「コンテナ」という単位にまとめて扱う開発チーム向けのサービス形態です。
FaaSは、プログラムの小さな処理を、特定の出来事をきっかけに実行する形です。
どちらも便利な分類ですが、IT初級者が最初に覚えるなら、まずはSaaS・PaaS・IaaSの違いで十分です。
使う人に近いほどSaaS、仕組みを作る人に近いほどPaaSやIaaSです。
3つの違いは「どこまで任せるか」で見る
用語を暗記しようとすると混乱しがちです。
そこで、「何を使うか」よりもどこまでを提供会社に任せるかで見ると整理しやすくなります。
| 管理するもの | SaaS | PaaS | IaaS |
|---|---|---|---|
| 業務で使うアプリの利用・設定 | 利用者 | 利用者 | 利用者 |
| アプリの開発・運用 | 提供会社が主に担当 | 利用者 | 利用者 |
| アプリを動かす環境 | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 | 利用者 |
| OSなどの基本ソフト | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 | 利用者 |
| サーバー・保存場所・ネットワークなど | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 |
| 物理的な機器・施設 | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 | 提供会社が主に担当 |
この表は一般的な整理です。
実際のサービスでは、設定できる範囲や責任分担が異なります。
導入時には、契約内容やセキュリティの担当範囲を個別に確認してください。
混同しないために: 言葉が示す「範囲」をそろえる
クラウドとSaaSを混同しないためには、会話の中で「どの範囲の話をしているか」をそろえることが大切です。
クラウドは、アプリだけでなく、サーバー、データ保存、開発環境などを含められる広い言葉です。SaaSは、その中でも完成したアプリを使うサービス形態を指します。
そのため、次のように言い換えると、相手に伝わりやすくなります。
| あいまいになりやすい言い方 | 伝わりやすい言い方 | 理由 |
|---|---|---|
| 「クラウドを導入します」 | 「勤怠管理をSaaSで導入します」 | 何を導入するのかが具体的になる |
| 「クラウドを使っています」 | 「クラウド上のサーバーを使っています」 | IaaSの利用である可能性が伝わる |
| 「SaaSに移行します」 | 「自社運用の業務アプリから、SaaS型の業務アプリへ移行します」 | 運用の変化まで説明できる |
社内外の会話で「クラウド」という言葉だけを使うと、聞き手によってはSaaSを思い浮かべるかもしれませんし、
サーバー環境を想像するかもしれません。
広い言葉であるクラウドに、対象となるサービスや目的を一言足すと、認識のずれを防げます。
よくある誤解
意外と陥りやすい誤解をまとめます。
誤解1: クラウドは、すべてSaaSである
これは正しくありません。
SaaSはクラウドの代表的なサービス形態ですが、クラウドにはIaaSやPaaSなども含まれます。
メールや会計アプリを使うならSaaS、自社システムを動かすサーバーを借りるならIaaS、アプリ開発の土台を使うならPaaSというように、目的に応じて形が変わります。
誤解2: ブラウザで使うアプリは、必ずSaaSである
ブラウザで使えることはSaaSに多い特徴ですが、それだけで判断はできません。
重要なのは、完成したソフトウェアをサービスとして提供されているかどうかです。
ブラウザは入口の一つにすぎません。
誤解3: クラウドなら、利用者は何も管理しなくてよい
クラウドでは提供会社が多くの技術的な作業を担います。
しかし、利用者側にも、アカウントの権限設定、パスワードや多要素認証の運用、データの扱い、業務ルールの整備など、必要な役割があります。
任せられる範囲はサービス形態や契約内容によって変わります。
クラウドは「利用方法」、SaaSは「使うアプリの提供形態」
クラウドとSaaSの違いをまとめると次のとおりです。
クラウドは、IT機能をインターネット経由で利用する広い考え方です。
SaaSは、そのクラウド上で提供される完成済みのソフトウェアを使う形です。
最後に、会話で迷ったときの確認ポイントを整理します。
| 確認したいこと | 当てはまる場合 | 呼び方の目安 |
|---|---|---|
| 利用者は完成済みのアプリにログインして使うだけか | はい | SaaS |
| 開発者がアプリを作るための環境を使うか | はい | PaaS |
| サーバーや保存場所を借り、自分でシステムを動かすか | はい | IaaS |
| これらを含め、ネット経由でIT機能を利用する話か | はい | クラウド |
まずは「クラウドは広い言葉、SaaSはアプリを使う形」と押さえれば十分です。
そこから必要に応じて、PaaSやIaaSへ理解を広げていくと、ITの会話をより正確に読み解けるようになります。

ご意見やご感想などお聞かせください! コメント機能です。