月や火星に基地を作るとき、揺れが課題になる理由(月震や火震を比較)

月や火星に人が滞在する計画が進むと、放射線や低温だけでなく、地面の揺れも無視できない課題になります。

基地

月震や火震
基地を建設するなら耐震設計?

地球に地震があるように、月では月震、火星では火星地震(火震)が観測されています。
しかも、月震や火震は、単に「小さな地震」と考えるだけでは不十分です。
月では揺れが長く続くことがあり、火星では隕石の衝突が内部深くまで地震波を伝えることが分かってきました。

ここでは、地球、月、火星の揺れを比べながら、基地建設への影響と、揺れから分かる天体内部の情報を整理します。

情報は2026年9月時点で確認できる公開資料に基づいています。

地球、月、火星は、どのように揺れるのか

まず、3つの天体の揺れを大まかに比べてみます。
ただし、観測機器や距離、揺れの伝わり方が異なるため、マグニチュードを単純に横並びにはできません。

比較項目地球火星
主な原因プレート運動による断層のずれ、火山活動、衝突など月の内部が冷えて縮むことによる断層運動、地球の重力による潮汐、隕石衝突、昼夜の温度変化内部の断層運動、隕石衝突、地表付近の熱による岩石の破砕など
活動の活発さプレート運動が続くため、世界各地で日常的に発生発生は確認されているが、地球より少ない。活動の頻度は場所や種類で異なるInSightが観測した期間だけでも1,319件。現在、同じ規模の観測網が稼働しているわけではない
最大級の観測例マグニチュード9.5。1960年のチリ地震およそ5.0~5.5の浅い月震が知られている2022年に観測されたイベントは4.7±0.2。NASA資料では概数として5と説明されることもある
揺れの継続時間小規模なら数秒、大規模なら数分程度が一般的種類によっては10分を超え、浅い月震では数時間続くことがある2022年の大きな火星地震は4時間以上続き、揺れの影響が少なくとも約6時間記録された

地球の最大記録は米国地質調査所(USGS)が示すマグニチュード9.5です。
一方、月と火星の値は、地球の地震で使うマグニチュードと完全に同じ条件で測ったものではありません。
そのため、「月や火星のほうが安全」と数値だけで判断することはできません。

特に基地にとって重要なのは、揺れの大きさだけでなく、揺れ方と継続時間です。
弱めの揺れでも、長時間続けば構造物や機器に繰り返し負荷を与える可能性があります。

月震には4つのタイプがある

アポロ計画で月面に設置された地震計は、月が完全に静かな天体ではないことを示しました。
月震は、原因によっておおむね4つに分けられます。

1. 深部月震

深部月震は、月の地下深くで起きる揺れです。
地球と月の重力の引っ張り合いによる潮汐力が、月の内部を周期的に変形させることが原因と考えられています。

地球の潮の満ち引きと似た力が、固体である月の内部にも働いている点が特徴です。
深部月震は、月の内部構造を調べる手がかりになります。

2. 浅発月震

浅発月震は、月の比較的浅い場所で起こる揺れです。
月が冷えて縮むと、地殻に断層が形成されます。
その断層が動くと、月震が発生します。

NASAは、こうした月震が地下20~30キロメートル付近で起こり、規模が5.5に達することがあり、10分を超えて続く場合があると説明しています。

2025年のNASAの報告では、月の南極地域を含め、活動を続けている可能性のある断層の位置と揺れの頻度を推定する研究が紹介されました。
月の断層は数百万年単位で見ると繰り返し動いている可能性があり、将来も活動する可能性を否定できません。

3. 隕石の衝突による月震

月には大気がほとんどないため、小さな天体も地表まで届きやすくなります。
隕石が衝突すると、衝突地点の近くから地震波が広がります。

人工物を月面に衝突させて地震波を調べる実験も行われました。

資料によっては、隕石衝突と人工衝突を別に数えることがあります。
今回は、自然現象としての月震を整理するため、衝突による揺れとしてまとめています。

4. 熱月震

熱月震は、月面の岩石が昼夜の激しい温度差で膨張と収縮を繰り返すことで起きる、浅い場所の揺れです。

月の昼は非常に高温になり、夜は極端に冷えます。
大気がほとんどないため、地表付近の温度変化が大きくなりやすいことが背景にあります。

火震は「2タイプ」と説明されるが、原因の2分類ではない

火星の揺れは、NASAのInSightランダーによって詳しく調べられました。
InSightは2018年から観測を行い、2022年12月にミッションを終えるまでに1,319件の火震を検出しました。

InSightの研究では、火震の波形は大きく次の2タイプに分けて説明されます。

月に近いタイプ

地震波が地中で散らばりやすく、到着の仕方が複雑になるタイプです。
月震に似た特徴を持つため、「月に近いタイプ」と説明されます。

地球に近いタイプ

地震波が比較的まとまって伝わり、地球の地震に近い波形を示すタイプです。
火星のケルベロス地溝帯で発生した大きめの揺れには、このタイプが多く見られました。

ここで注意したいのは、「火星地震には原因が2つしかない」という意味ではないことです。
火星の揺れには、内部の岩石が割れたり断層が動いたりして生じるものと、隕石の衝突で生じるものがあります。
熱による地表付近の岩石の破砕も、観測信号の一因と考えられています。

2025年のNASA・JPLの報告では、隕石の衝突による地震波が、火星のマントルにまで届く例が示されました。
火星の地殻は衝突による波を弱めると考えられていましたが、実際には波が比較的直接的な経路で内部を伝わる場合があるようです。

揺れから、水や地殻の状態が分かる

地震計は、揺れを記録するだけの機器ではありません。
地震波が天体の内部を通るとき、速度や進む方向が変化します。
その変化を調べると、地表から直接掘れない深部の情報を推定できます。

地殻、マントル、核の境界を推定できる

火星では、地震波が地殻、マントル、核を通る際の変化から、内部の構造を推定できます。
火星の中心核の大きさや状態を調べるうえで、InSightの観測は重要な役割を果たしました。

水や氷の存在を間接的に探れる

水そのものを地震計で直接見ることはできません。
しかし、水や氷を含む地層は、乾いた岩石とは地震波の伝わり方が異なります。
そのため、地震波とほかの観測データを組み合わせれば、地下の氷や水を含む層の推定に役立つ可能性があります。

ただし、月や火星で「水がどこに、どれだけあるか」を地震観測だけで確定できるわけではありません。
場所や量については、レーダー、分光観測、掘削などとの組み合わせが必要です。

天体がどのように冷え、変化してきたか分かる

月が冷えて縮んでいることや、火星で現在も断層活動が起きていることは、天体の進化を考える材料になります。
揺れは、天体の過去を知るための自然な探査信号でもあります。

基地探査では、どのような影響があるのか

月や火星の基地にとって、揺れは「基地が一度に倒壊するか」だけの問題ではありません。
長期間の運用では、細かな損傷や機器のずれが積み重なる可能性があります。

基地の場所を選ぶ必要がある

月では、断層の近くほど地震の影響を受ける可能性が高くなります。
NASAが紹介した研究では、断層周辺の岩石の崩落や地滑りを手がかりに、過去の揺れの規模と頻度を推定しています。

将来の基地候補地では、日照や水氷の有無だけでなく、断層、斜面、崩れやすい岩石、地盤の状態も調べる必要があります。

構造物と機器の耐震設計が必要になる

月や火星の基地は、地球の建物をそのまま移行すればよいわけではありません。
低重力、真空に近い環境、温度差、放射線、砂や粉じんへの対策も同時に必要です。

さらに、長く続く揺れに備えて、接合部の強度、機器の固定方法、配管や電力ケーブルの余裕、予備システムなどを設計する必要があります。
基地を地表に置くのか、地面の下に設けるのか、レゴリスで覆うのかも、揺れと放射線を合わせて検討する課題です。

着陸機やローバーの運用にも影響する

月震や火星地震は、居住区だけに影響するとは限りません。
着陸機、アンテナ、太陽電池、探査車、燃料や酸素の貯蔵設備も、揺れによって位置がずれたり、転倒したりする可能性があります。

特に月では、浅発月震が数時間続くことがあるため、短期間の有人滞在では影響が限定的でも、長期基地では無視しにくいリスクになります。
NASAも、長期的に使う月面設備への影響は大きくなり得ると説明しています。

まだ観測網が足りない

地球には多数の地震計がありますが、月や火星の観測点は限られています。
火星ではInSightが1地点で観測したため、地震の正確な位置や規模に不確かさが残ります。
InSightはすでに運用を終えており、将来の基地建設に向けて、複数地点の地震計を配置することが重要になります。

月でも、アポロ時代の観測データは貴重ですが、将来の基地候補地を詳しく評価するには、現地に新しい観測機器を設置する必要があります。

月や火星以外の天体も揺れるのか

岩石でできた天体は、内部の冷却や断層運動、潮汐力、隕石衝突などによって揺れる可能性があります。
ただし、「実際に地震計で確認されたか」と「理論上、起こり得るか」は分けて考える必要があります。

金星

金星では、地質活動が続いている可能性を示す地形や大気の変化が研究されています。
しかし、2026年9月時点で、月や火星のように地表の地震計で継続的な地震観測が行われたとはいえません。
金星の地震活動の頻度や最大規模は、現時点では確定していません。

水星

水星には、内部の冷却に伴って縮んだことを示す断崖地形があります。
そのため、過去または現在の地殻変動による揺れが起きる可能性はあります。
ただし、月や火星のような地震計による直接観測はなく、発生頻度や規模は不明です。

小惑星や小さな衛星

小惑星では、隕石の衝突による振動が、表面の砂や岩石を移動させる可能性があります。
小さな天体は重力が弱いため、地球や月と同じ意味で「地震」と呼べるかは注意が必要です。直接観測が限られている天体も多く、揺れの規模や頻度は不明な場合があります。

基地建設では「揺れない」前提を捨てる必要がある

月も火星も、完全に静止した天体ではありません。
月では、冷却による縮小、潮汐、温度変化、隕石衝突によって月震が起きます。
火星では、内部の断層運動や隕石衝突による火震が観測されています。

基地建設で重視すべきなのは、最大規模の数字だけではありません。
次の点を一体で評価する必要があります。

  • どこで揺れが起きるのか
  • どの程度の頻度で起きるのか
  • 揺れがどれほど長く続くのか
  • 地盤や斜面が揺れでどう変化するのか
  • 基地や機器が繰り返しの揺れに耐えられるか

月震や火震は、基地にとってリスクである一方、地下の水や氷、地殻、核を調べるための貴重な情報源でもあります。
将来の宇宙基地は、揺れを避けるだけでなく、揺れを観測しながら安全性を高めていく設計が求められます。

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